後ろ髪の引かれる先 


 昔、好きな人がいた。いた、ではないか。今でも好きだ。彼は海賊になってしまってとうの昔に島を出た。私も誘われたけれど断った。どうしても海賊になる自分が想像できなかったから。
 そんな彼が、何故ここにいる。


 島の陽気に当てられて公園のベンチですよすよと寝息をたてていた私を膝に乗せ毛並みを撫でているのは紛れもなく昔好きだった彼その人だった。
 彼……ローが島を出てから能力者になったから、まさか膝に乗せている猫が私だとローは気づいていない。
 私が起きていると知ってか知らずかローは訥々と昔話をした。この島にいた頃の話だ。
 話をまとめるとローは私を迎えに来たようだった。なのに、小さなこの島をいくら探しても見つからず、途方に暮れていると文句を垂れていた。それで猫相手に愚痴を零しているのかとおかしくなる。
 にゃあ、と一声鳴くと知らねェかと寂しそうに笑うからこっちが泣きたくなった。
 ここで正体は明かせない。だって、知られたらローは私を連れて行く。ローに着いていくことはしたくなかった。
 穏やかな風がローの髪を拐う。帽子、前に被っていたのと違う。もこもこのぶち模様なのは一緒だけれど形が変わった。

「あいつがいない生活に、どうしても馴染めなかった」

 そんなの、私だって同じだよ。でもローを信じていないわけじゃないけれど、一緒に旅をして万が一目の前でローを失うことがあったらと思うと私は怖くてここから動けない。少なくともここにいる限りはローとの思い出に浸ったままでいられる。狡くてごめん。


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